採用面接で腹が立って「志望動機なんかありません」と答えたときの話

採用面接で腹が立って「志望動機なんかありません」と答えたときの話

十年以上前、新入社員の最終面接で出会った一人の女子学生のことを今も覚えている。
彼女はノックもせず部屋に入り、挨拶もなく座ると下を向いたまま固まってしまった。緊張する学生は多いが、彼女はその中でも極端だった。顔は真っ赤で、今にも泣きそうに見えた。

私は穏やかに声をかけた。「緊張しなくていいですよ。話せるようになったらで構いません。」
彼女は小さく頷き、面接は静かなまま進んだ。

その光景を見ながら、私は自分の就活時代を思い出していた。

大学4年のとき、私は子供の頃から夢見ていたパイロットの道を諦め、仕方なく就職活動を始めた。夢が消えた後の私はどんな会社でもよく、ただ「給料が良さそうだから」という理由で金融業界を受けた。
ある証券会社の面接では、担当の社員がもう一人の学生ばかりと話し、私には一言も振らない。やがて彼は不機嫌そうに「最後にチャンスをあげる。志望動機を話してみて?」とタメ口で言った。

私は心底うんざりして、「志望動機なんかありません。夢が叶わなかったので仕方なく就活してるだけです。落として構いません」と正直に答えた。
当然、その面接は落ちた。

翌日、別の証券会社・大和證券の面接を受けた。履歴書に「パイロットになれなかったので就活しています」と書いた私を、面接官は笑いながら「どうしてパイロットを目指したの?」と尋ねた。
そこから試験内容や努力、失敗の原因などを語るうちに、私は自然と夢中で話していた。最後に彼は静かに言った。

「本気で目標に向かった経験は、必ずあなたの財産になります。人生は一つじゃない。」

その言葉で、心の中に残っていたひねくれた気持ちがほどけたように思えた。
そして私はその会社に内定をもらった。

それ以来、私は「志望動機」という言葉に強い違和感を覚えている。
学生にとって就職活動とは、待遇やイメージ、将来性などの“印象”で会社を選ぶものだ。適性があるかどうかなど、学生には分かるはずがない。
むしろ、どんな人材が必要かを知っているのは企業側である。だからこそ、多くの学生に応募してもらい、その中から最適な人を選ぶ。

にもかかわらず、「当社を志望した理由は?」などと、あたかも会社が特別であるかのように思い上がった質問をする面接官がいる。
中には「最後にチャンスをあげる」などと勘違いした態度を取る者までいる。だが、会社が社員に“恩恵を与える存在”だと思っている時点で、致命的な間違いだ。
本来、社員こそが会社に価値を与える存在であり、その対価として給与や機会を得る。だからこそ面接官はまず「当社に興味を持ち、時間を割いてくださってありがとうございます」と感謝するべきだ。

そして、冒頭の女子学生の話に戻る。
彼女が何も話せずにいた間、私はそんな考えを伝えた。面接は会社が学生を選ぶ場ではなく、お互いのニーズが合うかを確かめる対等な場であること。緊張して話せなかったとしても、自分を偽らずにいられたことを恥じる必要はないこと。

「今日は話せなかったかもしれないけれど、あなたが優秀な学生であることは分かっています。面接とは、お互いが合うかどうかを確認するものです。」

彼女は静かに涙を拭き、小さく「はい」と答えた。
帰り際、しっかりと目を合わせて微笑んだその表情を、私は今も覚えている。

後日、就活口コミサイトに「落ちたけど、就活の考え方が変わった。いい会社です。」という書き込みを見つけた。時期と内容から、きっと彼女だろう。
それを読んで、私は小さな誇りを感じた。

今、時代は確実に変わりつつある。
昭和的な「会社に入れてもらう」発想から、令和の「自分の力を提供する」時代へ。これからは企業が「志望動機は?」と問う時代ではなく、求職者が「私はこれができます。御社は何を提供してくれますか?」と聞く時代になる。

もしまだ、古い文化のまま「当社を志望した理由は?」と尋ねてくる面接官がいたら、遠慮なく笑って席を立てばいい。
そんな会社に未来はないのだから。

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